自動車や家電、携帯電話などの機械は、工作機械によって生み出されています。
工作機械における、金属素材を切る、削る、穴を開ける
といった金属部品加工(切削加工)には、ドリルやエン
ドミル等の切削工具が必要不可欠です。
ツーリングとは、切削工具を工作機械に取り付けるため
のアダプターの役割を持つ機械工具です。工作機械や切
削工具の性能を最大限に引き出すために、ツーリングに
は高い精度が求められています。
高精度な機械加工において、ツーリングは工作機械や切
削工具と同様に加工精度の良し悪しを左右する非常に重
要な役割を担っています。
マシニングセンタやフライス盤などの工作機械は、ドリル、エンドミル、フライスといった切削工具を機械の主軸に取り付けて加工を行います。しかし、切削工具はシャンクの太さや形状がさまざまであり、すべてに対応する保持構造を主軸に直接持たせると、剛性が低下したり、振れが生じる可能性があります。そのため、工具をそのまま主軸に取り付けることはできません。
この問題を解決するために、工作機械の主軸と切削工具を接続する役割を担うのが「ツーリング」と呼ばれる保持工具の総称です。ツーリングは、主軸に取り付けるための柄部分であるシャンク、切削工具を固定するホルダ、さらにホルダと切削工具の間に装着して着脱をスムーズにするツールアダプタなど、複数の部品で構成されています。
ツーリングは、マシニングセンタのATC(自動工具交換装置)の効率的な運用を支えるだけでなく、適切な加工精度を維持しながら切削加工を行うために欠かせない役割を果たしています。これにより、切削工具の保持力を確保し、工作機械と工具の信頼性や性能を最大限に引き出すことが可能となります。
ツーリングのシャンクの種類
ツーリング工具における主軸に取り付けられる部分は「シャンク」と呼ばれます。シャンクには、汎用工作機械用とマシニングセンタ用の2つのタイプがあり、それぞれの形状や保持方法に応じてさらに細かい規格が設定されています。
主なシャンクの規格としては、広いテーパ面積により高い保持力を発揮するBTシャンクや、中空構造を採用してフレを極力抑える設計が特徴のHSKシャンクなどが挙げられます。また、汎用工作機械で広く使用されているNTシャンクという規格も存在します。
これらのシャンク規格は基本的に互換性がないため、選定する際には注意が必要です。工作機械の主軸形状や加工する材料の特性・形状、使用する切削工具の種類といった条件を総合的に考慮し、適切なシャンクを選択する必要があります。
BTシャンク
BTシャンクは「ボトルグリップテーパ」を略した名称で、主にマシニングセンタで使用されるツーリング規格の一種です。このシャンクは、ATC(自動工具交換装置)で使用するためのボトルグリップを備え、シャンクのテーパ部分を主軸に接触させて固定します。シャンクの後端にはプルスタッドボルトという突起があり、この突起を引っ張ることで主軸に強固に引き込んで保持する仕組みです。主軸との接触面には7/24テーパ(軸方向24mmに対し直径が7mm小さくなる形状)が採用されています。
BBTシャンク
BBTシャンクは、BTシャンクの欠点を改良して開発されたシャンクです。従来のBTシャンクでは、主軸とホルダのテーパ部分が接触する構造により、切削熱や重切削による応力でシャンクが主軸に食い込みやすい問題がありました。その結果、加工精度のズレやツールの取り外しが困難になる場合がありました。一方、BBTシャンクはテーパ部分に加えて、ホルダのフランジ端面と主軸端面を接触させる設計を採用しています。これにより、剛性が向上し、主軸への食い込みを防ぎつつ、曲げ剛性も強化されています。
HSKシャンク
HSKシャンクは、軽量かつ短い設計が特徴のシャンクで、ドイツ語の「Hohlschafte-Kegel」(中空のテーパシャフト)を由来としています。このシャンクは名前の通り中空構造で、軽量性を活かしてATCの交換時間を短縮できる利点があります。また、中空構造により遠心力が小さく、高速回転時のバランス性能に優れています。さらに、テーパ角が1/10と小さいため、繰り返し位置決めの精度が高いのも特長です。
CAPTOシャンク
CAPTOシャンクは、テーパ角1/20のポリゴン形状(上から見ると膨らんだ三角形)を採用しており、この形状により曲げ剛性や捩れ剛性、トルク伝達力が向上しています。この特性から、重切削作業にも適しており、主に複合加工機で使用されます。また、マシニングセンタとターニングセンタの両方で共用可能であるため、コスト削減や生産性向上にも寄与します。
NTシャンク
NTシャンクは「ナショナルテーパ」の略称で、引きねじで固定する仕組みを持つシャンクです。このシャンクは主にフライス盤や中ぐり盤などの手動工具交換を行う工作機械で使用されます。
BTシャンクとNTシャンクの違い
BTシャンクは、プルスタッドボルトを用いて固定する仕組みで、機械的な動作で簡単にクランプできるうえ、高い保持力を持っています。このため、ATCを備えたマシニングセンタに適しています。一方、NTシャンクは引きねじを使った固定方式を採用しており、主に手動で工具交換を行う汎用旋盤や中ぐり盤で利用されます。このように、固定方式や使用される工作機械の違いが、BTシャンクとNTシャンクの主な特徴です。
シャンク規格選定時のポイント
シャンクには複数の規格が存在するため、選定時には以下のポイントを確認する必要があります:
1. 使用する工作機械や主軸の規格
2. 加工対象物の材質や形状
3. 加工時の回転数や切削条件
4. 取り付ける切削工具の種類
これらの条件を考慮することで、使用する工作機械に最適なシャンクを選ぶことができます。
ツーリングのホルダの種類
ツーリング工具の中で、切削工具を直接保持する部分は「ツールホルダ」または「ホルダ」と呼ばれます。このツールホルダには、保持部の形状に応じて、凹状の「ホルダ」と凸状の「アーバ」の2種類があり、それぞれに適した切削工具が異なります。
さらに、ツールホルダが切削工具を保持する方法にもさまざまな種類が存在します。たとえば、コレットチャック、ミーリングチャック、シャンク一体型の油圧チャック、焼きばめチャックなどが挙げられます。これらのホルダは、それぞれ切削工具の着脱のしやすさや保持力の強度といった特徴が異なるため、選定時には注意が必要です。特に、被削材の素材や加工に使用する切削工具の種類に応じて最適なホルダを選ぶことが求められます。
ツールホルダは切削工具と直接接続される部分であるため、選択した種類によって加工精度に大きく影響を与える可能性があります。そのため、使用する工作機械や加工内容、切削工具の仕様、加工する材料の特性といった条件を十分に考慮し、適切なツールホルダを選定することが極めて重要です。
コレットチャック
ドリルやエンドミルなど、ストレートシャンクの切削工具を固定するためのホルダで、コレットとチャックユニットで構成されています。コレットには、すり割りと呼ばれる縦方向の切り込みが入っているのが特徴です。チャックユニットを締めることでコレットに外から圧力がかかり、切り込みが閉じることで切削工具のシャンク部分を締め付けて保持します。取り付け精度が高いため振れが少なく高速回転の軽切削に適していて、保持力が弱いものの工具の交換が容易などのメリットもあり、広く用いられているホルダです。
ミーリングチャック
ニードルベアリングによる締め付けの力で切削工具のシャンク部分を固定するもので、ロールチャックと呼ばれることもあります。エンドミルのシャンク径に合うストレートコレットを介して取り付けるホルダで、ストレートコレットを変更すればさまざまな工具に対応できるため、生産現場でも多く使われています。 工具を掴む力や汎用性に優れますが、曲げ剛性に弱い特性があるため注意が必要です。
油圧チャック
ハイドロチャックとも呼ばれ、ホルダに油圧機構を内蔵しているチャックで、主にストレートシャンクの切削工具を保持する際に用いられます。油圧の力で工具を保持し力をかけなくても着脱が行える点や、取り付け精度の高さによって振れが抑えられ剛性にも優れているのが特徴です。高い精度が求められるリーマ加工などに適しています。
サイドロックホルダ
ストレートシャンクの切削工具の平取り加工された部分に、ホルダ側面からねじを締め付けて固定するチャックです。平取り部をねじで留めることで高い保持力が得られることから、大径の切削工具に適しています。ただし、切削工具をねじによって押す構造のため、ホルダと切削工具の接する面積が小さく、剛性は低めでビビリが発生することがあります。構造が単純でコストパフォーマンスが高く工具の抜け落ちも防げますが、主に刃先交換式のドリルなどにしか対応していない点に注意が必要です。
焼きばめホルダ
焼きばめチャックとも呼ばれ、加熱と冷却によって筒の内径を変化させてストレートシャンク形状の切削工具を保持するホルダです。ホルダを加熱して熱膨張させてから切削工具を挿入し、その後、冷却による金属の収縮を利用して工具の保持を行う仕組みです。ホルダの加熱にはバーナーや電熱ヒーター、高周波誘導加熱装置など、工具挿入後の冷却には自然冷却やエア冷却などが使われます。シンプルな構造ながら保持力や取り付け精度、剛性に優れ、精度の高さが要求される加工に用いられますが、加熱や冷却に時間がかかるというデメリットがあります。
フライスアーバ
フライスアーバとは、マシニングセンタやフライス盤に用いられる正面フライスやサイドカッターなどを取り付けるツーリングです。ツーリングのシャンクは、ストレートシャンク、NTシャンク、BTシャンク、複合加工機に向いたHSK規格などがあり、使用する加工機械の規格に合ったものを選ぶ必要があります。
加工精度にはツーリングのフレ精度や剛性が重要
切削加工において、使用する工作機械や切削工具、加工手順を慎重に選定することは、作業効率や加工精度、さらにはコスト管理の観点で非常に重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。工作機械と切削工具をつなぐ役割を果たすツーリングの精度や剛性も、加工結果や工具寿命に大きな影響を与える要因となります。
ツーリングの精度が適切でない場合、高精度な工作機械を使用していても、その能力を切削工具に十分伝えることができません。
たとえばエンドミル加工において、ツーリングの剛性が不十分であれば、加工精度の低下や振動(ビビリ)の発生を招くだけでなく、工具の寿命を短くする原因にもなります。
その結果、加工精度が損なわれ、生産性が低下し、
製造コストが増加する恐れがあります。
このように、どれほど性能の高い工作機械や適切な切削工具を用いたとしても、ツーリングの選択が不適切であれば、それらの性能を活かしきれず、結果として無駄になってしまう可能性があります。そのため、加工精度や作業効率を向上させるには、剛性と保持力に優れたツーリングを選定することが欠かせません。ツーリングの選定は、切削加工における成果を左右する重要な要素といえます。