ウェット加工、ドライ加工、セミドライ加工の違い

切削加工において、切削油剤を循環使用しながら行う加工を「ウェット加工」、切削油剤を全く使用せずに行う加工を「ドライ加工」、そして切削油剤を微量のミスト状にして加工部に噴霧し、加工後には加工物がほぼ乾燥している状態の加工を「セミドライ加工」と呼びます。

これらの加工法は、時代ごとの生産環境や工具の進化に伴い変化してきましたが、使用する工具や被削材の特性、さらには加工の種類に応じて最適な加工法が選択されます。

Mastercam(ver.2025)だから可能にしたドライ加工

J’s Factoryが協賛する、Mastercamを使用したドライ加工の動画です。
使用機械はDMU3rd Generationで、材質はSUS304。切削油を使わない加工が行われています。

現在ではCAMのアップデートや工具の開発、そのコーティングの発達により可能領域も変化しています。

以下に、それぞれの加工法の特徴について詳しく説明します。

ドライ加工(乾式)

切削油剤を全く使用せずに行う加工法は「ドライ加工」と呼ばれます。この方法では、刃先を冷却しないため加工中に刃先は非常に高温になりますが、超硬工具やセラミック工具など、高温下でも強度を保つ工具材種やコーティングの開発により、この加工法が実現可能となりました。

ドライ加工でのメリットがある材料は限定されており、主に鋳鉄、高硬度材、鋼材、強度の低いアルミニウムなどが対象です。

鋳鉄は、その強度が比較的低く、材料中に含まれる黒鉛(グラファイト)が摩擦抵抗を軽減するため、切削時の摩擦熱による温度上昇が抑えられます。これにより、工具の硬度が保持され、加工を安定して行うことができます。

アルミニウムの場合、鋼ほど強度が高くないことに加え、熱伝導率が高いため、切削時に発生する熱が素早く周囲に拡散され、刃先が高温になりにくいことが特長です。これにより、工具の硬度が低下せず、長時間の加工が可能になります。

ただし、アルミニウムのドライ加工では、切削速度を高くすると、アルミニウムの低い溶融点により刃先に溶着物が形成され、いわゆる「構成刃先」が発生します。これが起こると、加工面の仕上がりが悪くなったり、工具の摩耗が早まったりするため、切削条件の見直しが必要です。その場合、ドライ加工から切削油剤を使用する加工に切り替えることが一般的です。

また高送り工具を使用した加工では切削量を少なくして送り速度を速くする工法で、CAMプログラミングと合わせることで高硬度材への高能率な荒取り加工が実現します。その際刃先が高温になる為切削油を使用すると熱亀裂などの悪影響があり切り屑除去の為にもエアーブローでの乾式加工が優れています。

またドライ加工のメリットとして、切削油剤を使用しないため、加工後のワークから油剤を洗浄する手間を省ける点が挙げられます。これにより、工程の簡略化やコスト削減にも寄与します。

ウエット加工(湿式)

ウェット加工は、切削油剤を使用する最も一般的で広く普及している切削加工方法です。この方法に用いられる切削油剤には主に、油性の「油性切削油剤」と、水で希釈して使用する「水溶性切削油剤」の2種類があります。

水溶性切削油剤は、油性切削油剤に比べて冷却性能が高いため、切削速度を向上させ、生産性を高めることが可能です。そのため、かつて主流だった油性切削油剤は、次第に水溶性切削油剤に置き換わり、現在では水溶性切削油剤の使用が主流となっています。

ウェット加工は、通常の鋼材部品や金型加工に加え、高硬度材や難削材など、さまざまな部品に対して適用できる汎用性の高い加工法です。

切削油剤の主な機能は1次機能として、潤滑性、冷却性、そして刃先部の凝着防止機能があり、これらが加工精度の向上に寄与します。2次機能としては、洗浄、防錆、防腐、そして泡立ち防止機能が挙げられ、作業の効率化や製品の品質維持に貢献します。

しかし、環境汚染や地球温暖化に対する取り組みが盛んに行われるようになり、生産性を最優先する従来の考え方を見直し、環境に優しい生産技術や低環境負荷の加工方法の開発が求められるようになってきています。

セミドライ加工(オイルミスト)

セミドライ加工は、ウェット加工の高い生産性を維持しながら、より環境負荷を低減するために開発が進められた加工法です。

1) 加工時の熱分布と刃先の冷却

切削加工では、発生するエネルギーの約97%が熱として放出されますが、そのうち80〜90%は切屑に集中します。一方で、刃先と加工物の接触部(すくい面)では、発生熱の5〜10%が工具に伝わります。ウェット加工では、この部分を切削油剤が冷却し、工具刃先の温度上昇を抑えることで、工具の高温軟化を防ぎ、長時間の連続加工を可能にしています。

しかし、刃先に直接関与する熱は全体の発熱量のわずか1%以下であることが分かりました。そこで、刃先の冷却に切削油剤を大量に使わなくても、ミスト状の油剤を少量噴射して潤滑と必要最低限の冷却を行うことで加工が可能ではないかと考え、セミドライ加工の研究が始まりました。

2) ミスト冷却の効果

一見すると、液体を多量に使用するウェット加工のほうがミスト冷却よりも効果的に思えますが、実際には条件次第でミストのほうが優れた冷却効果を発揮することがあります。

例えば、旋盤加工の刃先には、「すくい面」と「にげ面」があります。すくい面では高温になった切屑が工具に押し付けられ、冷却がほとんど行われません。一方、にげ面にはわずかな隙間ができるため、この部分に冷却の余地があります。

ウェット加工の場合、クーラントは液体であるため、刃先の高速運動により加工面から遠ざけられ、工具表面の冷却が不十分になります。クーラントが十分に作用する前に、刃先から流れ出してしまうのです。対してミスト冷却では、細かい油滴(10〜100μ程度)が蒸発し、気体状態で隙間に入り込むため、刃先に適切な潤滑を提供しながら、わずかながら冷却効果も得られます。オイルミストの場合、冷却性能は低いものの、潤滑性が高いため、細径ドリルや非鉄金属などの熱伝導率が高い材料、または仕上げ加工に適しています。

3) 水溶性ミストによる冷却性能の向上

セミドライ加工の冷却性をさらに向上させるため、水溶性ミストを用いた加工法が開発されました。これにより、従来のウェット加工に近い加工能率が実現され、冷却性能の低さを補完しながら、環境負荷の軽減を図ることが可能になっています。この水溶性ミストによるセミドライ加工は、従来の油性ミストに比べて冷却性能が高く、刃先の温度管理がより効率的に行えるため、より幅広い加工に対応できる技術として注目されています。

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